導入事例 No.004

自然環境からプラスチック分解菌を単離し、環境浄化への応用を目指す

東洋大学 生命科学部応用生物科学科
准教授 東端 啓貴 様



ユーザー様について

(ホームページより抜粋)
マイクロプラスチックによる海洋汚染が、海洋生物、鳥類、ヒトなどへ深刻な悪影響を及ぼす可能性があるとして、近年、世界中で注目されています。プラスチック分解菌を自然環境から単離しその特徴を調べることで得られた知見を、環境浄化に利用しようと考えています。
この研究は、東洋大学バイオレジリエンス研究プロジェクトの一環として進められています。

東端 啓貴 准教授の略歴

2000年、大阪大学大学院工学研究科博士後期課程を修了。
(独)産業技術総合研究所(旧 通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)、筑波大学生命環境科学研究科、関西学院大学大学院理工学研究科等を経て2006年より東洋大学生命科学部の講師、2007年から同大学の准教授へ。
また2014-2015にパリ南大学 遺伝学微生物学研究所の客員研究員。
専門分野は極限環境微生物学、応用微生物学、遺伝子工学。

取材の経緯

近年、マイクロプラスチックやプラスチックごみ等の環境浄化の観点から、プラスチックを分解できる菌の存在に社会的な関心が高まっています。
東洋大学の東端先生の研究室では数年前よりプラスチック分解菌の研究を行っており、自然界から数々の菌を単離・培養し、動態を詳しく調べておられます。
そのプラスチック分解菌の研究にタイテック製品をお使い頂いていることを知り、詳しい実験手法や今後の展望などをお聴きしたく、インタビューに伺いました。


 

長らく先生のご専門である、超好熱菌の研究にお使い頂いているタイテック機器
図1)+100℃までの振とう培養が可能な小型振とう培養機BR-21FH
図2)+200℃までの加熱が可能な、アルミブロック恒温槽DTU-1C+実験容器に合わせた特型のアルミブロック

――先生は元々極限環境微生物、中でも+80℃以上を至適生育温度とする超好熱菌をご専門とされていると伺っております。極限環境微生物というと温泉噴出口など、過酷な環境に暮らす菌が思い浮かびますが、何かそういった繋がりからプラスチック分解菌にも興味を持たれたのでしょうか?

「そうですね……。僕の研究室では、自然界から菌を培養単離し性質を調べる一連の手法に長けています。
その研究手法を生かして、また『学生さんがコツコツと真面目に手を動かせば結果が得られる実験テーマ』として、当時少し話題になり始めていたプラスチックを分解できる菌というのも面白いなと研究を始めた次第です。
自然界から雑多な菌を採集して、プラスチックだけを食べられる条件で培養して増やし、単離する。この単離操作に入るまでの過程が実は2年ほどかかるのですよ。いまようやく候補となる菌が幾つか取れてきているところなのですが、実験を始めた当初と比べてマイクロプラスチックの問題等でプラスチック分解菌への注目がぐっと社会的に高まっておりまして、そこは有難いことだなと感じています」

 

――自然界からの菌の採集から、培養して増えるまで2年ですか!
その間に社会情勢も変化する、地道に様々な研究を行うことの大切さを改めて感じます。
先生。よろしければ可能な範囲で、どのような場所からプラスチック分解菌の候補を採集しているのか、また詳しい培養手法を教えて頂けますでしょうか?

「わかりました。まず採集場所に関して。僕たちはポリエチレンを分解できる菌を探索しているのですが、もしそういった菌が自然界に居るとしたら、その菌は普段はポリエチレンそのものではなく、ポリエチレンに似た自然界の物質を食べて生きているのではないかなと考えました。
そこで、ポリエチレンに似た樹脂状の物質が存在する自然環境からの菌の採集を行なっています。
具体的には
・ミツバチの巣(蜜蝋)
・ハゼの木(和ろうそくの原料となる木)
・竹のロウ粉
・ユキヤナギの木についたカイガラムシ
(カイガラムシはロウ状の物質を体外に分泌する。東洋大学の学内にて採集)
・油田の土(北海道の原油湧出地の土。ちょうど極限環境生物学会が北海道であった際に採集)
などから菌を集めてみました」

 

――先生、そこまで具体的に採集場所を聞いてしまって大丈夫なのでしょうか?

「構いませんよ。すでに色々な場所にて発表済で、また先に言いました通り、自分で採って培養して実際に菌を得るまでに2年以上かかりますからね」

 

その後、先生よりプラスチック分解菌の詳しい単離方法をお伺いしました。

  1. 各種ミネラルを含む溶液に、100%ポリエチレンの粉(Sigmaで試薬として売られているものをUV滅菌して使用)のみを餌として加えた培地を作製し、そこに自然界から採集した菌たち(この段階では雑多な状態)を入れ、28℃で長期間の振とう培養を行う。
    他に炭素源が無いので、ポリエチレンを食べられる菌だけが増殖してくる。
    増殖したら、新しい培地に植え継ぐ。この操作を2回ほど行うことで、ポリエチレンを分解する菌を増やす(集積培養)。ここまで2年ほどかかる。
    *菌が増えると培養液が白濁してくるのでわかる。
    *培養温度を28℃としたのは、日本の気候に近い温度を考えてとのこと。
  2. 1.を栄養豊富な固形培地上に撒くと一気に増殖するので、コロニーとしてピックアップ。
    ここでプラスチック分解菌の候補が数百できる。
  3. 2.で単離した菌が本当にポリエチレンを分解できるか?1株ずつ試験管で
    「菌+100%ポリエチレンの粉+各種ミネラルを含む溶液+酸化還元状態を見る青色の呈色試薬(DCPIP)」で培養して確認(下図3、4を参照)。
    (参考文献:Kim, H. R. et al., Heliyon, 9, e15731 (2023))
    もし試験管内の菌がポリエチレンを食べられる株であれば、細胞内で生じた還元力により、試験管内に加えた青色の呈色試薬の色が薄くなる。
    1週間ほど培養を行ったのち、色の濃さを視認および分光光度計で測定、有望株を選ぶ(セレクション)。
    *候補が数百株あるので、こうして大まかに色の変化で選別。
  4. 選んだ有望株を改めてポリエチレンの粉+各種ミネラルを含む溶液で培養。実際に菌がポリエチレンを分解できているのか、培養後にポリエチレンの粉を回収して、分析装置で分解具合(官能基の変化)を確認。

ということを行われています。

図3)4)プラスチック分解菌の候補を1株ずつ試験管で培養し、選別しているところ
弊社恒温振とう培養機BR-21FPにて28℃で培養。

 

現在のセレクション方法では、BR-23FHで数百本の試験管を振っては測定をして……という煩雑さがあります。
手法を洗練し学生さんの負担を軽減するために、先生は先日、弊社のウェルプレート対応恒温振とう機MBR-022Rを購入くださいました。

 

図5)6)弊社恒温振とう培養機 MBR-022Rにウェルプレートをセットしているところ。
+15℃〜+60℃にて、ウェルプレートやディープウェルプレートを2枚まで振とう可能。
先生は28℃での培養を予定。

実際の試験はこれからのこととなりますが
上記3.での試験管でのセレクションと同様に、96ウェルプレートに菌+ポリエチレンの粉+ミネラル溶液+呈色試薬を入れて7日間ほど振とう培養。その後、プレートリーダーで色を測定し有望株をセレクションすることを計画されています。
ちなみに「96ウェルプレート自体もプラですが、そこはいいのですか?」と先生に伺ったところ、「そこはもう気にしないことにしています」とのこと。
確かにウェルのプラスチックを分解できるような菌がいたら、それがチャンピオンですね。

 


あとがき

有力なプラスチック分解菌が取れ、菌の持つ性能、遺伝子や酵素への知見が深まること。またその知見が環境浄化に役立つことを願っております。
東端先生、お忙しい中お話をありがとうございました!


記事中に登場する製品

小型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® BR-23FH


使い勝手と省スペースを両立した小型タイプ。
■使用温度範囲:室温+5℃~+100℃(中~高温向け) ■振とう方式:往復/旋回切換

アルミブロック恒温槽 ドライサーモユニット DTU-1CN


恒温水槽なみの温度精度、ゆったり入る深型。+200℃までのCタイプ。
■使用温度範囲:室温+5℃~+200℃ ■温度調節精度:±0.1℃以下(*1)

ウェルプレート・マイクロチューブ対応恒温振とう培養機 マキシマイザー MBR-022R


ウェルやマイクロチューブ等の小径容器での多検体処理、高速微震動に。
■使用温度範囲:+15℃~+60℃(*1) ■温度調節精度:±0.5℃〜1.0℃(*2)

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