導入事例 No.003

“積木細工”の発想で切り拓く高機能タンパク質デザインの未来

東北大学 大学院工学研究科 バイオ工学専攻
生体機能化学講座 タンパク質工学分野 教授 梅津 光央 様



ユーザー様について

(ホームページを要約)
タンパク質はアミノ酸のポリマーであり、折りたたまれて3次構造を持つ「ドメイン」を形成し、それら「ドメイン」が相互作用して4次構造を形成します。
機能面から観ると「ドメイン」の形成が機能発現の最小単位になっていることが多く、構造・機能としても最もデータが蓄積されている単位(モジュール)は「ドメイン」です。私たちは、データベースから様々な「ドメイン」を選択もしくは新しい「ドメイン」を創りだし、それらを融合させる積木細工的発想で、利用目的に特化した高機能なスマートタンパク質を設計する方法論を研究しています。

梅津 光央 教授の略歴

2000年、東北大学大学院工学研究科生物工学専攻博士課程を修了。同年、ライデン大学の特別研究員を経て、2001年より東北大学教員へ。2014年、大学院工学研究科バイオ工学専攻教授。専門分野は生体機能化学、タンパク質工学、分子認識、ハイブリッド自己組織化。2005年には第20回生体機能関連化学部会部会講演賞、2008年にはアメリカ材料学会春季ポスター賞を受賞。


実験台としても使用できる大型振とう培養機G・BR-200/300を数多くご利用いただいている梅津研究室。なぜ同製品を集中的に選定して頂いているのか、その理由をお聴きしたくインタビューに伺いました。


「ドメイン」を積み木細工のように組み上げてタンパク質をデザインする

遺伝子を操作してタンパク質をデザイン(設計)するという考えは、Ulmerという研究者が1983年に発表した、タンパク質工学を研究している人ならば誰もが知っている有名な論文“Protein Engineering”、がベースになっています。「ドメイン」を積み上げるという発想は私だけのものではなくて、タンパク質の構造を理解している研究者ならば抱いているものなのでしょう。私の場合は、あたかも有機分子のように自由自在にタンパク質をデザインしたいという動機から「ドメイン」を積み上げるという手法に着目をしています。
「ドメイン」は、その中のアミノ酸を一個変えるだけでもタンパク質は立体構造をとらなくなることが多く、結果大腸菌などでタンパク質をつくろうと思ってもできないということになります。天然に作られた構造=「ドメイン」が有機分子には無いひとつの「いいもの」と捉えれば、それに手を加えずに繋ぎ合わせると、無理のないタンパク質のデザインができるのではないか?天然の構造を活かしながら、安定した非天然な構造をつくるならば「ドメイン」を積木のように組み上げていくのが合理的なのではないかと考えるわけです。
また「ドメイン」の大きさは数ナノメートル。現代の技術ならば、他の有機材料や無機材料もナノレベルの大きさのものが作れる。ならば、ただ単にタンパク質同士をつなぎ合わせるだけではなく、有機材料や金属などの無機材料も組み入れたハイブリッドなタンパク質をデザインできるのではないかという考えが、私の研究の柱になっています。

タンパク質利用の可能性を広く世の中にアピールしたい

現時点でのタンパク質の利用と言えば「医療」に関わる酵素や抗体がメインですよね。私はその他の様々な分野においても、タンパク質がどれだけ利用できるかの可能性を追求したいと考えています。年間約1万件ものタンパク質の構造が明らかになり、次々とデータベースに蓄積されています。これは、他の有機分子や無機材料を遥かに上回る情報の蓄積量です。自然界が何万年もかけて作り上げてきた、タンパク質にしかできない機能を活かすことで、今までタンパク質が活用されていない他の分野にも活用が出来るのではないかと思うのです。
そのようなわけで、現在、私の研究室では「医療」「環境」「ナノテク(材料)」への活用を目指して研究を行っています。

「医療」においては「腫瘍やがんの治療およびイメージングのためのスマート抗体」…
例えば一本鎖抗体は、通常の抗体よりも低分子のため解析が容易で薬として応用する際には安価に製造できるという利点がありますが、その開発工程ではしばしば結合親和性や薬物動態等に関する機能が損なわれてしまうことがあります。私達は一本鎖抗体を多量体化することにより、これら失われた機能を回復または強化する研究をしています。
また、がん細胞と免疫細胞の両方に結合し架橋することができる「2つの異なるモノクローナル抗体から再構築された二重特異性抗体(非天然抗体)」を考案し、がん細胞だけを強力に殺傷する分子標的薬として開発を進めています。

「環境」においては「高効率にバイオ燃料を生産するためのハイブリッド酵素」…
ある種の嫌気性微生物が産生するセルロソーム(高分子セルラーゼ複合体)はバイオエタノールの原料となるセルロースを効率的に分解しますが、社会実装を考えると生産性や能力にまだまだ課題があります。私たちはナノ粒子上にセルラーゼの2種の触媒ドメインとセルロース結合ドメインを効果的に集約結合させた人工セルロソームを開発し、その活性が天然セルロソームよりも数倍のセルロース分解活性があることを示しました。
「ナノテク」においては「自動で組みあがるナノデバイス」…
例えば、私達は抗体が無機材料等の表面構造も識別して、そこへ吸着できると考えてきました。その結果、これまでに金属やセラミックス表面を識別して結合できる抗体を取得、その抗体を用いた無機ナノ粒子や蛋白質のパターニングやナノ粒子のアセンブリに成功してきました。この技術は、無機・有機・バイオ分野のナノ素材を積木のように積み上げることによって特定機能を持つナノデバイスの作製を可能にすると考えています。
実は、「無機材料に結合できる抗体」の発想の原点は、昔観たテレビドラマで主人公の研究者が開発した「何でもくっつけられる接着剤」だったりします(笑)。
これらは、分野は違えども全てタンパク質の利用に他なりません。タンパク質を如何に高機能化させるか、安定的な構造を持たせるかという点が共通の考え方なのです。すなわち同じフォーマットを用いつつ、その「出口」を変えることにより、異なる分野へ活用できるタンパク質を生み出して行くのが、私たちのアプローチなのです。
医療だけじゃなく、タンパク質にはもっといろいろな使い道があること、なにかもっと面白い可能性が秘められていることを世の中にアピールしていきたいですね。

タンパク質のデザインに役立った物理化学での経験

東北大学の入学は工学部で、大学で初めて学んだ「量子化学」が大変面白く感じました。もともとは生物も化学もそんなに好きじゃなかったんです(笑)。量子的な考え方がなぜか好きで「不確定性原理」や「粒子と波動の二重性」などにとても惹かれていました。そんな中で興味をもったのが「生物物理化学」です。物理化学的に生物を理解する学問で、例えば生物を分光学的に測定し分析するといったことを行います。分子が集まって起こる一番複雑な現象は恐らく「生物」だと言えるでしょう。
数学という哲学を使って物理を理解し、次に物理の方法論を使って化学を理解する。そして化学において分子同士が相互作用を及ぼし、様々な物質を生産したり反応を起こしたりする複雑なシステムが「生物」であるならば、最終的に研究の対象として一番面白いのは「生物」なのではないかと感じたのです。
しかし測定をしていていつも不安だったのは「いいサンプル」に出会わないと「いい結果」が出ないということでした。「いいサンプル」が対象ならば実験のしがいがあって楽しいのですが、そうでない時はちっとも面白くない(笑)。「これは自分でもサンプルを作れなきゃいけないな」と常々思っていたところ、熊谷先生(註1)の元で助手をさせて頂くチャンスを得たのです。そこで「モノ」を作ることを覚えたのが、タンパク質工学の道に入るきっかけでした。
(註1)梅津教授の恩師。梅津教授は東北大学の学生だった当時、熊谷教授の研究室の隣の研究室で光合成関連の分光を使った測定・解析の研究を行っており、卒業してオランダでポスドクを経験した後、熊谷教授が「研究室に持ってない技術を持っている人財を助手として採用したい」という意向から熊谷教授の研究室に入った。そして、熊谷教授も「タンパク質を全く違ったところで使いたい」「材料工学の 分野でなにかできないか」という思いを強く持っており、それが「無機材料に結合する抗体」の研究につながった。熊谷教授の研究室は現在、梅津教授が引き継いでいる。

タンパク質の研究はある意味「泥臭い」とよく言われます。タンパク質ごとに性質が異なるため、あるタンパク質で発現がうまくいったからといって、ではこちらのタンパク質でもうまくいくかと言えば、そうでもない。一度に採れる量が少なく、精製するのも大変。いろいろと面倒くさいのです。
しかし逆に言えば、そのようなタンパク質の多様性を得るための困難さを解決するために先人たちが考えてきたアプローチ方法も、また多様ということです。クロマトグラフで分離できますし、様々な発現系も用意されています。もともと分光測定でヘテロなサンプルに向き合っていた私には、タンパク質を研究対象にすることにさほど苦労は感じませんでした。「こいつら弱っちい奴だなあ」とは今でも思いますけどね(笑)4℃環境で保存しないと壊れてしまうし、すぐに解離や凝集をしてしまうし…。先に述べた、安定的な構造を持たせる必要性とは、タンパク質がいかに優れた機能を持っていたとしてもタフでなければ、世の中で広く利用されるのは難しいという意味です。
どうやったら実験がうまくいくかの考察においては、物理化学的な土台が役に立ちました。実験手法をあてずっぽうではなく理論立てて考えられるのは強みですね。不溶化タンパク質からのリフォールディングでは、タンパク質の可溶化状態の物理化学的理解があったおかげで、タンパク質の特性に合わせて試薬のブレンドをいろいろと頭の中でシミュレーションできたんですね。
ただ、私の体験では、これからバイオ研究者を志す学生にとっては「体で覚える」方がベストだと思っています。実験は失敗しながら覚えるものですが、最初に理論に偏りすぎると、考えすぎて手が出ず、苦手になってしまうケースが多いのです。最初は実験の意味が分からなくともまずは体験して、後から理論で裏付けるほうが根本的な理解に繋がる気がします。この辺りは「論法」から入る物理化学と、バイオの違いなのでしょう。
分光測定をやっていた経験上、情報が無ければ解析のしようがないというのが私の考え方です。ですから当ラボでは先ずデータをたくさん集めてから、次に何が起こっているかを考えます。タイテックさんの恒温振とう培養機を使って、学生一人当たり常時50種(!)ぐらいのタンパク質を発現させています。まさに「体で覚える」ですね(笑)
ひとつのタンパク質で得られた経験値は、必ずしも他で活かせないのがタンパク質の難しいところです。効率的なタンパク質のデザインにあたっては、先ず多くのサンプルを得る手法を確立し、出来るだけ情報を集積してから解析するのが最も確実で速いやりかたと考えています。

今までで最もエキサイティングな瞬間は?

エキサイティングと言うより、研究の醍醐味と言ったほうがいいかもしれませんが…「予想が当たったとき」でしょうか。仮説が当たった瞬間を生で見た時は、やっぱり嬉しいものです。今までの失敗もその理由が明らかになりますしね。
熊谷先生の元で助手をやっていた時に、タンパク質のリフォールディング(巻き戻し)を分光学的な手法で解析するという研究を行っていました。質量分析でSS(ジスルフィド結合)のかかり具合を見る実験で、途中で試薬を添加してSH基の反応を止めたりといった複雑な操作を行いつつ、他の傾向も見渡しながら「ここで試薬を止めたらこういうスペックのタンパク質が生成するはずだ」という予測をたてました。夜中の3時か4時の事でしたけど、一発で予想通りのものが出来上がった時にはやはり嬉しかったですね。研究者としての楽しみの原点はこういう所にあるのではないでしょうか。
私が第一著者ではないのですが、アルギニンの凝集抑制効果を用いたタンパク質のリフォールディングについての論文で成果を上げたことをきっかけに学会で名前を覚えられ始めたときも、嬉しかったですね。
初めて無機材料に結合するペプチドや抗体を採ることができて、さらにそのペプチドによって無機材料同士をアセンブリできたときもエキサイティングでした。電子顕微鏡で見たらとてもきれいな花びらみたいになっていて、思わず大爆笑しました。私はこういう小さい出来事で喜べるんです(笑)
セルロースを分解する酵素であるセルラーゼのドメインをバラバラにして、ナノ粒子も交えて組み上げた(=ハイブリッドナノセルロソーム)際も、理屈通りにデザインができ、しかも期待した機能を発揮できたので嬉しかったですね。

当社製品をお選びいただいている理由

まず故障が少ないですし、もし故障してもすぐに来てくれる。そして確実に直してくれるので、24時間安心して使えるのが良いですね。
特に当ラボにたくさん設置されている大型の恒温振とう培養機G・BRは、実験台としても使えますから省スペースでとても便利な名機だと思います。実験台として使う場合には振動があるので精密な作業はお勧めできないとタイテックさんは言っていますが、想像していたよりもずっと振動が少なくて大丈夫でした。当ラボでは培養するサンプル数がとても多いので、G・BRの上で誘導試薬を各培養液に一斉に入れてそのまま扉を開けて中に入れる、といった使い方をよくしています。タイテックさんのM・BRを使ってディープウェルで培養もしますが、G・BRで50mL三角フラスコを96個振ることのほうが多いかな。
そうそう、G・BRと言えば天板の色ですよ、なぜ黒になってしまったんですか(註2)!? 私は白天板を気に入っていて、当ラボのG・BRは全て白天板です。ぜひ、白天板を復活させてください。白天板であれば、さらなる名機になること間違いなしです(笑)
改善を要望するとすれば、まず操作部にカバーが欲しいですね。上で作業をしていると膝でボタンを押してしまうことがあるので。振動が少ないこともあって、うっかり振とうを停止させてしまっても気づきにくい(笑)。ですからカバーは必要だと思います。
また、欲を言えば節電と排熱の抑制を両立できる製品があると素晴らしいですね。大学全体での電力消費量が決められているのですが、建物が増えたり装置類が増えると、装置1台あたりの電力消費量の割り当てが当然圧迫されてきます。今後、節電はますます重要になると思います。排熱に関しては、培養機器室の温度が真冬(外は-5℃!!)でも暖房なしで温かいぐらいになってしまうので、他の機器への影響等も心配になってきます。難しいことは分かっていますが、解決してほしいと思います。
(註2)G・BR-200/300は補助的な実験台としても使えるよう、天板として実験台と同じ素材の板を上面に備えている。この板は現在、天面が光沢のある黒で側面が艶消し黒の素材となっているが、部材調達の関係で天面が白色のものだった時期がある。

 
 
 


あとがき

ご自身の研究は「タンパク質の設計(デザイン)だ」と仰る梅津先生。膨大なデータベースを持つタンパク質を世の中で活用できるようにするには、先生が実践されているスピード感あふれる研究戦略が不可欠であると今回のインタビューで感じました。東北大学発の高機能タンパク質が、人々の生活を潤してくれる未来はすぐそこに来ているのではないでしょうか。

最近は卒業生の結婚式のスピーチが年3回といったペースで回ってくるとのこと。このようなハイペースで回ってくるとスピーチの内容を考えるのもさぞかし大変だろうと思いきや…

各々のスピーチの内容をドメインで分割して積木細工のように組み替えることで飽きの来ないストーリーをデザインしています、と冗談っぽく締めくくってくださいました。


記事中に登場する製品

大型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® G・BR-200


2段重ねとリフトアップドア、サイド実験台としても活用可能で大量培養と省スペースを両立。
■使用温度範囲:+4℃~+80℃ ■温度調節精度:±0.3℃~1.0℃(*1)

大型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® G・BR-300


2段重ねとリフトアップドア、サイド実験台としても活用可能で大量培養と省スペースを両立。
■使用温度範囲:+4℃~+80℃ ■温度調節精度:±0.3℃~1.0℃(*1)

中型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® BR-43FL・MR


実績豊富な中型。左右開きドアタイプ。積重ね省スペース。
■使用温度範囲:+4℃~+70℃(低~中温向け)(*1) ■振とう方式:往復/旋回切換

中型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® BR-40LF


実績豊富な中型。ロングセラーの透明フードタイプ。積重ね省スペース。
■使用温度範囲:+4℃~+70℃(低~中温向け)(*1) ■振とう方式:往復/旋回切換

恒温振とう培養機(NewMax drive®搭載) DWMax M・BR-034P


96ウェルやマイクロチューブの恒温振とうに最適!新機構"NewMax drive®"搭載。ペルチェで室温以下も可能
■使用温度範囲:室温-7℃~+60℃(*1) ■温度調節精度:±0.5℃~1.0℃(*2)

ウェルプレート・マイクロチューブ対応恒温振とう培養機 バイオシェーカー® M・BR-024


96ウェルやマイクロチューブの恒温振とうに。ディープウエルプレートなら4個使用可能。
■使用温度範囲:室温+5℃~+65℃(*1) ■振とう方式:水平偏芯震動式

大型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® 二段振とう式BR-3000LF


シリーズ中最大の容量をさらに倍加。本体サイズそのままに二段振とう台で大量培養。
■使用温度範囲:+4℃~+70℃(*1) ■温度調節精度:±0.3℃~1.0℃(*2)

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「マジョニア管」
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