導入事例 No.001

極限環境である深海生命圏の調査と利活用を目指す

JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)
深海・地殻内生物圏研究分野/海洋生命理工学研究開発センター 様



ユーザー様について

(ホームページより抜粋)
海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology:JAMSTEC ジャムステック)は、平和と福祉の理念に基づき、海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を総合的に行うことにより海洋科学技術の水準の向上を図るとともに、学術研究の発展に資することを目的とした組織です。

 

取材の経緯

四方を広大な海に囲まれた日本。その深海域は容易に到達できないという点において、宇宙と同様に人類にとっての「フロンティア」であると形容されます。JAMSTEC様は、有人潜水調査船「しんかい6500」や世界屈指のスーパーコンピューター「地球シミュレーター」などを擁し、海底資源の探索や地球環境変動の研究、地震発生帯の研究などにおいて、またそこから得られた情報を元にしたシミュレーションにおいて広く知られています。近年では、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて地殻の更に下にあるマントル層までの掘削を目指す〈まんとるプロジェクト〉を開始したことでも注目されていますが、一方で深海における極限環境生命圏についても最先端の調査と研究を行っています。

極限環境に存在する生物の中でもとりわけ生命進化の解明や遺伝子資源の探索で注目される「極限環境微生物」ですが、16SリボソームRNAの遺伝子配列に基づいた系統解析からも、そのほとんどが培養できていない事が知られています。深海は一般的に、低温・高圧・暗黒といった環境が恒常的に続く季節感の非常に乏しい世界です。しかし地殻活動の活発な所には地球内部で熱せられた水が噴出する熱水噴出孔が存在しています。熱水噴出孔から噴出する高温・高酸・高アルカリといった水には、まさに「極限」の環境に生育する微生物がいます。

その研究現場でタイテックの恒温振とう培養機 〈バイオシェーカー® BRシリーズ〉が数多く使われていると聞き、取材をさせて頂きました。


難培養性微生物培養におけるバイオシェーカー®の役割

「未培養・難培養性微生物の培養には温度精度が重要なのです。」
スチール製の棚に整然と収められた恒温振とう培養機群を前に、技術副主任の宮崎様はそう話してくださいました。JAMSTEC横須賀本部にて現在、主に単離された微生物の分類・同定を行う仕事に携わっているとのことで、振とうを要するタイプの微生物を培養する「常圧培養室」を案内してくださいました。

その一台一台には、使用温度域を明記したカードが張り付けられています。
「深海には低温から超高温環境まで存在しているので、生育する温度が何℃であるかを探るところから始めなくてはなりません。様々に温度条件を変えながら『生えてくる』温度を地道に探していくわけです。こうして数多くの恒温振とう培養機を揃えているのも、そのような理由からです。」

 

「難培養微生物、特にアーキア(古細菌)の探索は『アーキアハンティング』と呼ばれていて、様々な研究機関がしのぎを削っています。私共のサンプルの多くは有人・無人の深海探査船が海底から持ち帰った貴重なものです。」

「生えてこないからといって存在しないと早計に判断し、存在するかもしれない貴重な微生物を捨ててしまうなどということは絶対にあってはなりません。濁度が上がらないからといって存在しないということではないので、温度制御に信頼性のある機器が不可欠なのです。」
機器の操作パネルの温度表示が実際の庫内温度を指し示すという、我々にとって極めて当たり前のことが評価頂けたことに、目から鱗が落ちる思いでした。

 

また、設置された恒温振とう機の大きさも超小型から大型までバリエーションに富んでいるのも見逃せません。
「酵素タンパクを得たい場合は菌体が大量に必要なので大型の振とう培養機、16Sの解析などにおける遺伝子クローニングなら少量の菌体で済むため小型、という具合に使い分けています。」

これまでで一番エキサイティングだったお仕事

単離された微生物を受け取って分類・同定を行う仕事は確立したスキームに従って淡々と行うものなのでアツくなる要素は少ないと、控え目に話される宮崎様。それでもエキサイティングだった瞬間はきっとあるはずです。

「これはバクテリア(細菌)なのですが、2008年ごろに〈ホネクイハナムシ〉(学名: Osedax japonicus)の生息周辺域から見つかった細菌がホネクイハナムシに共生していると考えられていた細菌のひとつと同じであることが分かり、しかも新種と分かった時には『やった!』と思いました。」

「ホネクイハナムシ類」は海底に沈んだクジラの遺骸に生息する多毛類で、口や消化器官を持たず、骨の中の有機物を利用する従属栄養細菌を体内に宿し栄養依存をしています(学名であるOsedaxには“骨をむさぼり食うもの”という、ちょっと怖い意味があります)。その細菌はホネクイハナムシの成長過程で環境中から取り込まれることが分かっていますが、当時はまだ分離同定されていなかったとのことです。
「当時、ホネクイハナムシ類の研究は決して進んでいるとは言えず、これは深海生物全般に言える課題でもあるのですが、採集や飼育などが困難であることが大きな要因です。JAMSTECと共同研究先ではこの状況を打開するために、ホネクイハナムシ〈Osedax japonicus 〉を深海生物研究のモデル生物とすべく研究を進めていました。その一環として、共生細菌の人工的な感染系を確立したのです。」
「ホネクイハナムシの生息周辺域からの共生細菌の発見は、この共生細菌が環境中から取り込まれるものであることを裏付けたと同時に、ホネクイハナムシの室内での飼育にとって不可欠な要素のひとつである共生細菌の人工的な感染系の確立につながりました。」

「さらにこの共生細菌は表現型・遺伝子型・分類系統学的な解析によりNeptunomonas属の新種であることが分かり、〈Neptunomonas japonica〉として記載することができました。」
「ホネクイハナムシは、今では累代繁殖が可能となっており、実験のモデル生物として活用されています。新江ノ島水族館で繁殖した個体を見ることができますよ!」
深海生物初のモデル生物〈ホネクイハナムシ〉が深海・極限環境生物のもつ特異な機能と、その進化の解明に貢献することは間違いなさそうです。


あとがき

 
 

強い海風が吹く中、JAMSTEC 横須賀本部の目の前の波止場には、無人探査機「ハイパードルフィン」を積んだ東北海洋生態系調査研究船「新青丸」と、深海潜水調査支援母船「よこすか」が停泊していました。お話によれば、これらの船の内部にもタイテックの恒温振とう培養機が設置されているとのこと。しかし長い航海に同行する研究者の方々は、機器のちょっとした修理ぐらいは自分たちの手でなんとかしてしまうため、タイテックのサービスマンが船内に伺う出番はあまりなさそうとのこと。修理技術の腕に覚えのある神奈川サービスセンターの大隈社員は、少し残念そうでした。

最後に、お忙しい中、快く取材に応じてくださった宮崎様、並びに広報担当の野中様には、厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。


記事中に登場する製品

小型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® BR-23FP


使い勝手と省スペースを両立した小型タイプ。環境にやさしいペルチェ方式。
■使用温度範囲:+15℃~+60℃(低~中温向け)(*1) ■振とう方式:往復/旋回切換

中型恒温振とう培養機 バイオシェーカー® BR-40LF


実績豊富な中型。ロングセラーの透明フードタイプ。積重ね省スペース。
■使用温度範囲:+4℃~+70℃(低~中温向け)(*1) ■振とう方式:往復/旋回切換

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